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Essay エッセイ

「また明日」

「また明日」

「また明日」という何でもないひと言が、実は幸せの印であることに気づく。

 ふだんのわたしは、会いたい人に、また明日も会えることを当たり前のように感じている。何気ない日常が、昨日から今日へ、今日から明日へと続いていくことに何の疑問も持たずにいる。些細なことに傷ついたり、がっかりしたり、腹を立てたりしながらわがままに生きている。

 けれど、突然変化は起きる。穏やかな午後、他愛ない会話を交わした次の瞬間、今日と同じ明日が来ないことを知る。大切な人ともう会えないかもしれない。家に帰れないかもしれない。二度とあの柔らかな頬に触れることができないかもしれない。そんな現実を、身を持って思い知らされる。そして、絶望の隣にはかならず希望があるのだということも。

 気が遠くなるような道のりでも、まずは一歩足を踏み出すことからはじまる。不安に押しつぶされそうな今だからこそ、胸のなかにあるこの想いをためらわずに伝えよう。照れずに愛する人を抱きしめよう。明日が見えない今だからこそ、大切な人に「また明日」と言おう。ありったけの笑顔で、「また明日」と手を振って別れよう。

 朝の来ない夜はない。春の来ない冬もない。乾かない涙も決してない。それがどんなに暗く、長いトンネルでも、「また明日」を信じて歩いていこう。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

Tags:

トンネル, 幸せ, 明日, 涙

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