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Essay エッセイ

いつか、もうすぐ

いつか、もうすぐ

 今の自分にぴったりのドレスと、すてきな靴があるといい。

 ちょうど体に合って、着ている間じゅう胸の開きや裾の具合を気にしていなくてもすむドレスと、ヒールの高さが8センチくらいあって、でもどこまで歩いても足が痛くならない靴。

 そんな服と靴は、簡単には手に入らない。眼を皿のようにして街を歩いても、なかなか探し当てられない。何かの拍子に突然目の前に現れる、運命の出会いのように。そのチャンスを逃さずに、さっと手を伸ばしてつかまえる。

 着ていくところがないとか、履く機会がないなんて言わない。その一着と、その一足が、今の自分にぴったりの幸せを呼び込んでくれるから。そのドレスを着て、その靴を履いたイメージを、いつも頭の片隅に置いておけば、知らず知らず自分を磨くことにもなる。

 クローゼットに仕舞ったまま、時が流れてもいい。鏡のなかの自分しか、その存在を知らなくてもいい。ただ、お披露目の日を楽しみにしていればいい。

 いざというとき、ここぞといいうとき、わたしにはあの服とあの靴がある。そう心に強く思えればいい。

 とっておきの服と靴は、かならず特別な時間を連れてくる。

 いつか、きっと。いつか、もうすぐ。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

Tags:

特別な時間, 靴

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