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Essay エッセイ
冬の楽しみ
雪やみぞれのちらつく冬の日は、一日中家にいるのがいい。寒い朝、今日一日、一歩も外に出なくていいんだと思うと、実にのびのびした自由な気持ちでいっぱいになる。この小さな住み慣れた部屋にいながら、広い世界のどこへでも飛んでいけるような解放感に包まれる。どこにも行かないと決めたとたん、わたしの心は気ままな旅に出かける。
一歩も外に出ないことが重要で、近くのスーパーに買い物に行くとか、はがきをポストに出しに行くとか、犬の散歩に行くとか、そんなちょっとした外出も、このほかほかした幸せをしゅっと消してしまう。同じ建物のなかの郵便受けに、手紙や夕刊を取りに行くのもだめ。
ありあわせの野菜と少しの肉で鍋いっぱいのスープを作り、今日は一日それで過ごすと決める。あたためてそのまま飲み、次は小分けにしてごはんや麺類を入れて煮込み、飽きてきたらほかの調味料で味を変えて食べる。
気が急いている仕事もなく、今日中にすませておくべき用事もなければさらにいい。そんな日に決まってすることは、ハードディスクやハンディビデオから溢れ出そうになっている録画の整理や、いつも急いで読み飛ばしてしまう新聞や雑誌の切り抜き。いるものといらないものを分けて、いるものは丁寧に保存する。スマートフォンやデジタルカメラの中にぎゅうぎゅうに詰まった写真だけは膨大すぎて手をつけられない。
こんなことばかりしていたら、いつかこの部屋は思い出に占領されて、わたしは思い出に押しつぶされてしまうのではないか。そんな不安をも楽しみながら、せっせと思い出を作り続ける。
何をしてもいい。何もしなくてもいい。どこへ行ってもいい。どこにも行かなくてもいい。そんな透明の時間がわたしをやわらかく癒してくれる。
Photo by MUKAI MUNETOSHI
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