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Essay エッセイ

家族の絆

家族の絆

 当たり前のことだけど、人は人から生まれてくる。でも、ふだんはそんなことは忘れて、最初からひとりで生まれてきたような顔をして生きている。

 自分をこの世に送り出してくれた人への感謝を、いつも持ち続けていられる人は少ない。自分より先に生まれ、人生を切り開いてきた人を敬う気持ちや、育ててくれた人の深い愛情を慮ることも忘れている。

 だんだん自分のほうができることが増え、知識と経験に自信をつけ、自分を生んでくれた人を上から見るようになる。年を重ね、できないことが増えていく相手を庇護するような思いも生まれる。社会的な立場が逆転し、まるで自分が保護者かのような錯覚に陥る。そのなかで、尊敬が軽蔑に変わることもある。愛情が憎しみに変わることもある。

 どんな人も、最初の一歩はその人に導かれたのに。はじめて口にした言葉は、その人に教わったのに。どんな喜びも悲しみも、その人と分かち合って大きくなっていったのに。そんな思いに立ち返る瞬間、自分の過去と未来をつなぐ家族の絆がくっきりと浮かび上がる。

 恋愛や友情では代わりのきかない、特別なつながり。何も信じられなくなったときも、無条件で受け入れてくれる場所。どんなにわずらわしくても、ぶつかり合っても、ずっと続いていく結びつき。もし切り離したら、すっきりするかもしれない。けれどそこには大きな悲哀とひずみが残るだろう。

 日常が非日常になったとき、家族の絆はたった一本の生命線となる。そこにまっすぐに流れる愛より、強いものはない。それは自分を信じる光となって、仄暗い空を照らしてくれる。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

Tags:

家族, 愛情, 最初の一歩, 絆

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