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Essay エッセイ

心は折れない

心は折れない

 最近、「心が折れる」という表現をよく目にしたり、耳にしたりする。

 昔はこんな表現しなかったのに、とつぶやいたら、そのはじまりはイチロー選手の発言だと友人が教えてくれた。そう言えば、と思い当たった。

 2009年のWBCキューバ戦に勝利したあと、イチロー選手がインタビューで「心が折れそうだった」と語った。この言葉は、イチローほどの選手でも弱気になることがあるのだと、多くの人の共感を呼んだ。それから、何かにくじけそうになるときに「心が折れる」という人が増えた。活字や、ニュースのナレーションなどにもこの表現が使われるようになった。何年後かには新語辞典に載り、十何年後にはごく当たり前のように辞書の例文になっているかもしれない、新しい日本語表現の誕生だ。

 でも、わたしはどうしても「心が折れる」とは思えない。心は、枝や骨のように、力を加えたらぽきんと折れるような形はしていないと思う。わたしのイメージする心は、硬くて細長いものではなくて、やわらかくて、ふんわりしている。つかみどころがなく、変幻自在に姿や形を変えるもの。

 心は折れない。きっと、持ち主の状態に合わせて、ちょっと伸びたり、縮んだりしているのだ。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

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