top of page

Essay エッセイ

満月の夜

満月の夜

 久しぶりに、ひとりで月見をした。部屋の電気を全部消して、ベランダに椅子を出し、缶ビールを持って座る。水晶は月光で浄化するのだと、前に友達が言っていたから、ルチルクオーツのブレスレットと、カナダで買った薄緑のクラスターも傍らに置いてみる。

 空を見上げると、どこも欠けていないまるい月が、仄蒼い光を放っている。流れる雲を寄せつけずにくっきりと浮かび上がる姿は、はっとするほど美しい。いくら見ていても飽きることがない。上を向き続けて首が痛くなるまで、そうしている。

 思えば子供の頃から、わたしは月を見るのが好きだった。毎日少しずつ形を変えていくのが不思議でたまらなくて、夜空を見上げては月を探した。家族と車に乗っているときは、どこまで行ってもついてくる月を、窓から顔を出してじっと眺めていた。帰り道をひとりで歩くときも、月がずっと見守ってくれているような気がしていた。

 満月の夜は皆、寝られないんだ。

 エリック・ロメールの「満月の夜」の台詞を思い出す。パスカル・オジェの、はかなげなのに力強い横顔は、月の光に似ていた。あのときわたしの隣の席に座って、一緒にスクリーンの中の月を見つめていた人は、今どうしているだろう。今夜わたしと同じように、眠れずに空を見上げているだろうか。

 わたしは目を閉じて、月に身をまかせる。月光はやさしく、全身に浴びているのがとても心地いい。でも、決して弱い光ではない。わたしのいる場所は思いのほか明るく、月明りは胸の奥のほうまで届く。だんだんと、心が澄みわたっていく。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

Tags:

エリック・ロメール, ルチルクオーツ, 満月, 満月の夜

bottom of page