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Essay エッセイ

眠れない夜

眠れない夜

 眠れない夜は、長いためいきといくつもの後悔を連れてくる。忘れたい思い出や、過去の失敗や、ネガティブな思考が渦を巻いて襲いかかってくる。頭を抱えてぎゅっと目をつぶるわたしのうえで、ぐるぐると旋回する。

 心も体も疲れきっているのに、目だけが冴えている。疲れていると、ことあるごとに判断を誤り、疲れを癒そうとして、かえって疲弊するようなことばかりくり返す。そんな悪循環のなかで、何もかも放り出したくなる。そんなとき、眠れない夜が手ぐすねを引いて待っている。

 愛する人を傷つけた自分の言葉や、疎遠になった友達の笑顔や、魔がさしてしまった数々の寄り道が次々と浮かび上がる。かすかな希望は最悪の想定にかき消される。生きていて無駄なことなど何ひとつないと信じているのに、この闇のなかではすべてのことが徒労に思える。

 眠れない夜を断ち切ろうと、いろいろなことを試してみる。あたたかいカミツレ茶を飲む。ラベンダーの香りのオイルを焚く。難解でふだんならすぐに眠くなる哲学書をめくる。どれも効果はなく、結局あきらめて仕事をする。部屋を片づける。靴を磨く。洗濯ものを色別に分ける。なんとか時をやり過ごして朝が来るのをじっと待つ。

 こんな夜がなければ、人はそこそこ幸福に生きていけるのではないかとさえ思う。何も考えずにすとんと眠りに落ちることこそが、何にもまさる贅沢だと痛感する。それでもわたしは、眠れない夜が何を教えてくれているかを考える。今のわたしを朝日のような未来に導いてくれる何かを探している。次は、うれしくてたまらなくて眠れない夜が来るように祈りながら。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

Tags:

ためいき, カミツレ茶, ラベンダー, 後悔, 思い出, 贅沢

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