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Essay エッセイ

苺の季節

苺の季節

 この季節、スーパーマーケットの店先に並ぶ、小粒でふぞろいで、色も淡い苺が好きだ。自然な甘みと酸っぱさでとてもおいしく、その上とても安い。これを何パックも買って、大きなボウル一杯食べたいと毎年思うが、結局いつものように1パックだけ籠に入れ、せいぜい10粒ぐらいを一度に食べる。

 苺狩りで摘んだ苺の味に似ている。ドライブで出かけた先でたまたま通りかかった苺農家で、夢中で苺を摘んでは口に入れた。獲れたての苺は太陽の匂いがして、食べても食べてもまだ食べたりない。持ち帰り用のダンボール箱をもらい、赤くておいしそうな苺を選びぬいて詰めた。

 車に揺られて家に着くと、箱の中の苺はみんな揃ってへなへなと萎れていた。まるで、魔法がとけたように。ついさっきまで宝石のようにぴかぴか光っていたのに、長旅に疲れてしまったのか。わたしはひどくがっかりして、その苺をスプーンでつぶして砂糖と牛乳を入れて、いちごミルクにして食べた。子供の頃、よく家族そろって食べた思い出の味がした。

 わたしの好きな苺が出まわり始めると、本格的に春が訪れる。苺の季節は、出会いと別れの季節だ。今年もまた、甘くて酸っぱい思い出がいくつか、できるだろうか。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

Tags:

宝石, いちご

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