top of page

Essay エッセイ

赤い実の記憶

赤い実の記憶

 わたしがもうすぐ小学校に上がる頃、白い家に引っ越した。

以前は外国人が住んでいたというその家は、天井が高く、床はこげ茶色の板張りで、一階はぶち抜きの広いリビングルームになっていて、二階に洗面所やお風呂がある、当時としては少々風変わりな間取りだった。

 引っ越した日は大雨で、到着したのはもう夜だった。窓から庭を眺めると、木に赤い実がなっているのが見えた。クリスマスのヒイラギのような鮮やかで小さな真っ赤なまるい実。朝になったら真っ先に庭に出て、あの実に手を伸ばすのだと、わくわくしながら眠りについた。

 次の日、庭に出てみると、赤い実はわたしが思っていたような赤い実ではなかった。色は朱色がかって少しくすんでいたし、形も細長すぎた。

 でも、見まわすと、ライラックの木が白いレースのような花をつけ、木蓮の木があって、窓の下には薄紫のあじさいが咲いている。わたしは、新しい自分の家が好きになった。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

Tags:

あじさい, クリスマス, ライラック, レース

bottom of page