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Essay エッセイ

遠い日のメリークリスマス

遠い日のメリークリスマス

 子供のころ、うちには白いクリスマスツリーがあった。友達の家でも幼稚園でも街のあちらこちらでも、クリスマスツリーは緑のものばかりだった。どうしてうちのクリスマスツリーは白いのだろう。それを母に聞いたような気もするし、聞かなかったような気もする。みんなの家と同じように、うちのツリーも緑だったらいいのにと、少し思っていたからかもしれない。

 白いツリーに、母は銀色の玉やモールを飾りつけた。そこにわたしが赤いものや緑のものを足した。いちばん上に金色の星を飾って、ちかちかする電気のスイッチを入れると、たくさんの小さな光がまたたいた。その金色の光が部屋中を照らしたり、暗くしたり、また照らしたりするのを、わたしはいつまでも飽きずに眺めていた。

 耳にするクリスマスソングは「ジングルベル」と「きよしこの夜」のふたつしかなくて、わたしは「きよしこの夜」のほうが好みだった。父に、どっちが好きかと聞いたら、父は「アヴェマリア」が好きだと言った。父は散歩をしているときやお風呂に入っているとき、よくアヴェマリアをうたってくれた。わたしもアヴェマリアが好きになった。

 寒い冬に、ストーブでよくあたためられた部屋で、わたしは家族へのプレゼントをつくった。私は二枚の折り紙を組み合わせて作る「めんこ」や「しゅりけん」が得意だった。ふだんは使わないでとっておく、金と銀の特別な折り紙を使ってめんこをたくさん折る。それをセロテープで張り合わせて箱を作り、最後の一枚はふたになるようにすると、きらきらした宝箱ができあがる。わたしは父と母と兄が、枕元でちょっとしたものを入れてくれるといいなと思って、わくわくしながら箱を作った。

 家族四人でテーブルを囲んで、延々とトランプ大会をしたイブの夜。兄と競争で早起きして、サンタクロースからの贈りものを開いたクリスマスの朝。黒コショウのきいた骨付きのチキンを食べ、ココアクリームの「薪のケーキ」を切り分けたクリスマスディナー。そんな思い出がさっと心を横切る瞬間、わたしは子供のころに戻りたいと、ふと思う。もう二度と戻れない遠い日に。

Photo by MUKAI MUNETOSHI

Tags:

アヴェマリア, クリスマス, クリスマスソング, クリスマスツリー, サンタクロース

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