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Essay エッセイ
Days in December
十二月になると、誰もが急に早足で歩き出す。「もう今年も終わりだね」と挨拶のように言う。「はやいねえ、毎年どんどんはやくなる」「夏が終わると年末まであっという間だよね」と目をぐるんとまわしてみせる。「来年こそ、いい出会いがありますように」なんて遠い目をする。
でも、本当はまだ、今年は終わっていない。十二月はちゃんと一か月、三十一日ぶんまかされている。一時間だって取り上げられてはいないのだ。十二月のひと月で、まだまだいろいろなことができるのに。もしかしたら、今の人生がすっかり変わってしまうようなことだって、起こるかもしれない。
だから、毎年最後にやってくるこの月を、ぎりぎりまで大切に過ごしたい。あたたかいブーツを履いて、きらきらした街を歩く。きりりとした冷たい風を頬に受けて、好きな人の手のぬくもりを思い出す。ずっと欲しかったものをひとつだけ買って、冬の部屋に飾りたい花を選ぶ。その花を土産に、会いたい人に会いにいく。
最近の様子が気になる人に、電話をかけてみる。ちょっと勇気がいるけれど、かけてしまえばどうにかなるものだ。髪を少し切って、丁寧にトリートメントをする。歯医者さんへ、年に一度の検診に行く。余った毛糸で手袋を編む。新しいレシピに挑戦する。家族と、昔からあるレストランで食事をする。サプライズゲストに大好きな友人を招いて。
慌ただしさとジングルベルの間を縫って、どうしても書いておきたいことを原稿にする。今、このときでなければ書けないこと。書かなければ書かないで通り過ぎてしまうもの。自分の心とまっすぐ向き合って、一気に整理をつけるような集中。それが新しい作品の種になるかどうかは、春になる頃にわかるだろう。
野球の試合で、大差で負けているチームが九回裏に一点取ったら、解説者の人が「これは明日につながる一点だ」と言う。負けてもそこに希望の光が見えるのだと。ならば十二月も、悔いなく思いきりやって、来年につながるひと月にしよう。そう心に決めて自分らしく過ごした時間は、きっといい年を連れてくる。
Photo by MUKAI MUNETOSHI
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ジングルベル, トリートメント, ブーツ, レシピ, 冬, 十二月